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由美と行く 
万葉紀行

26、

 「お友達が来るから駅まで見送りに行けないけど、元気でね。また、夏休みには帰ってきてね」
 「明代も頑張ってね。じゃあ、お母さん、またね」
 「身体に、気をつけてね」
 翌日、恒之は、大学へ戻る由美を乗せて家を出た。
 「もっとゆっくり出来たらいいのになあ」
 「大学は休みが多いから、いいなあって思っていたけど、コーラスやバイトで、そんなにゆっくりもしてられないのよね。学校を休んでバイトに行く学生も本当に多いのよ」
 「学費が高いからなあ」
 「親にあまり負担をかけてもいけないから、バイトするしかないのよ。学生も保護者も大変よね」
 「みんなが暮しやすくなるように考えて欲しいものだよ」
 車は、倉吉市に入り、駅へと近づいた。
 「ねえ、お父さん」
 「何だい?」

 「万葉集から始まって、この国の歴史をいろいろ調べてきたじゃない」
 「そうだね」
 「でも、調べていても出てくるのは、九州や出雲だったよねえ」
 「だよなあ。この列島を制覇していたのは、結局、出雲の勢力だったのではないかというように思えるよ。つまり、須佐之男尊や続く大国主命がこの列島の大王だったのかな」 
 「隋書まで見てきて、いわゆる大和の勢力は全く何処にも出てこないのよね」

 「ということは、7世紀半ばまでは、この列島には今に続く日本と呼ばれる国も天皇家も無かったということかな。それまでは、九州や出雲の姿しか見えない。こうして調べたから、出雲の姿も見えてきたが、一般的にはほとんど歴史には登場しないよ。むしろ出雲は消されていると見た方が良いのかもしれない」
 「じゃあ、出雲の勢力はその後どうなったのかしら」
 「そうだよなあ。次はそこが焦点になってくるかなあ。とりあえず、旧唐書や新唐書あたりを調べてみるよ」
 「私も、大学でまた何か資料がないか調べてみるね」
 「そうか、じゃあよろしく。これからの時期、お父さんは仕事が忙しくなるから、あまり調べる時間も無くなってくるよ」
 「また、夏休みになったら調べに行こうよ」
 「そうだ。昨年の秋、国立博物館が九州の大宰府にオープンして、その記念に志賀島の金印と、中国で発見された2個の金印が一緒に展示されたんだよ」
 「ええっ、そんなこと今までなかったよねえ」
 「2千年の時を超えて3個の金印が、一同に顔を合わせるんだよ。こんな歴史的なことはないよ。でも、それが分かったのはもう展示が終わる頃だったから、行けなかったんだ」
 「それは、残念だったわね。お父さん、行きたかっただろうにね」
 「まあ、仕方がない。だから、今年の夏にはぜひ行こうと思っているんだ」
 「それは、楽しみね。私も行けるようなら一緒に行くね」
 「お父さんも一緒に行けるのを楽しみにしているよ」
 間もなくやって来た倉吉駅始発の特急で、由美は帰っていった。



                      

   


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